取材・文:松井友里、写真:小林真梨子、編集:野村由芽(me and you)
有機的な身体のフォルムやアイコニックな眼差しが印象的なキャラクターを描き、近年ではK-POPのアイドルなどからも支持を集めるイラストレーターの田中かえさん。たまたまTENGA社に遊びに来たことをきっかけに、「性愛」をファッションで表現するTXAとのコラボレーションが実現することになりました。田中かえさんが関心を持っているという「コンプレックス」や「フェティシズム」「自己愛」を投影しながら、トップスからボトムス、アウター、ソックスまで幅広いアイテムが展開する今回のコレクション。そんなコレクションを表現するため、ルックのモデルを務めたのが、かねてより田中さんと親交のあるミュージシャンのUCARY & THE VALENTINEさんです。
取材場所は、御徒町にある田中さんがお気に入りの純喫茶 丘。田中さんのメイクが好きだというUCARYさんたっての希望により、田中さんがUCARYさんにメイクを施してから、対談を行いました。今回のコレクションについての話を皮切りに、ファッションやメイク、作品を通して、コンプレックスを含めた自分自身と向き合い、表現しながら生きていくことについて、おしゃべりが弾んでいきました。
「アートが好きで、恋愛みたいな感覚になるんです。かえさんの絵も見てると『頑張ろう!』という気持ちになります」(UCARY)
対談にあたって、UCARYさんはどうして田中さんにメイクをしてもらいたいと思ったのでしょう?
UCARY :私はときどきモデル業をすることもあるのですが、綺麗に仕上げるというよりは、奇抜なびっくり系のメイクにしてもらうことが多いんです。かえさんはパーツの距離感とかを考えながらメイクをしていて、それが絵を描く人ならではだなと思っていて。かえさんの描く絵みたいなバランスの顔にちょっとでも近づいたらどうなるんだろう?と思って、メイクをしてみてほしかったんです。
田中 :嬉しい。初めてUCARYちゃんに会ったとき、初対面なのに「寝相がやばいんです」って、自分の薄着姿の寝相の写真を見せてくれたんです。ライブも見たことがあったから、音楽とUCARYちゃん本人が重なったときに、こんなに面白い子がいるんだとあらためてびっくりして。モデルの動きも寝相で培われているのではないかと思って今回ルックの被写体を頼んでみました(笑)。
左から田中かえさん、UCARY & THE VALENTINEさん
UCARYさんは今回のコラボレーションアイテムについて、どんな感想を持ちましたか。
UCARY :実物を見るまで、かえさんの作品がどうやって服に落とし込まれているのかな?と考えていたんです。でも手にとってみたら、シルエットとか生地の選び方のクオリティがすごく高くて、おしゃれな人がちゃんと大切につくったものだと見た瞬間にわかって、素晴らしいなと思いました。服としてめっちゃかっこいいし、着て見せるのも楽しかったです。
田中 :ありがとう、よかった。
UCARY :かえさんの絵はかわいくて、あんまり他に見たことがない感じがします。今回のアイテムの目のモチーフは、シルエットがペイズリーみたいだなと思いました。私はアートが好きで、独り占めしてずっと見ていたくなったり、買いたくなったり、そばにあると勇気が湧いたり……恋愛みたいな感覚になるんです。かえさんの絵も見てると「頑張ろう!」という気持ちになります。
「田中かえ Jacquard Sweater Gray 」。今回のコラボレーションでは、「歪んだ目」のイラストを象徴的に使っている。
「服って消費的なものだと言われますけど、街で人が着ている様子を目にすることってすごくインパクトがある」(田中)
田中さんは今回「性愛」というテーマを、どのようにアイテムに落とし込もうと考えましたか?
田中 :ずっとアパレルにしたいなと思っていた目のモチーフを今回はジャケットやスウェットパンツに大きく使っています。目の中に喜びや悲しみなど、色々な要素を入れられるのもいいなと思ったんです。恋愛や性について友達と話すときに、嬉しい話より悲しい話の方が多かったりもするので、若干悲しそうな要素の方が大きくなった気もしますね。あと私はハートのモチーフが好きで。
UCARY :ハートのイメージ、あります。
田中 :どうにか入れたいなと思って、ジャケットの腕のところに刺繍で入れているんです。恋愛的なイメージのモチーフだけど、それを自分が制御するような感覚で、手でハートをぎゅっと握っているイラストを描きました。
「田中かえ Embroidery Jacket Pale Green 」を羽織って、「田中かえ Jacquard Sweater Gray 」を首に巻くUCARYさん。撮影は田中さんと縁の深い写真家の内藤啓介さんが担当。
田中さんは作品で身体を描かれることもありますが、今回は「性愛」というテーマの中でも特に感情や感覚にフォーカスされたんですね。
田中 :アパレルなので、着たときのバランスを考えたときにそういう形で落とし込みました。私、着るものとして形になっていることってすごくいいなと思うんです。服って消費的なものだと言われますけど、残るものでもあるし、街で人が着ている様子を目にすることってすごくインパクトがあると思います。
日常の中で、カジュアルに広く目に触れるものですよね。
田中 :私は自分の原画などについても、高額すぎない、手の届く価格で販売したいんです。崇拝もされたくないし、投資目的で買うよりも、本当に好きで作品を買ってくれる人たちのためにずっとやっていきたいなと思います。だから、たまに街で私のイラストがプリントされた服を着ている人がいたりすると声をかけそうになるけど、やめています(笑)。
「田中かえ Cropped T-shirt White 」は、田中さんのこだわりでシルクスクリーンでプリント。カスレ表現は田中さんとしても初の試み。
「自分のためでもあり、人のためでもある」「上品なパンクスでいること」。自分の心に合ったファッションとの向き合い方の変化
お2人はこれまでどんなふうにファッションと付き合ってきましたか?
UCARY :お父さんがデザイナーで雑誌をつくるお仕事をしていたり、お母さんもファッションとか刺繍が好きだったから、家にいろんな資料があって自然と情報が入ってきて。セックス・ピストルズの時代のロンドンの本を見て、「うわ、この服着たい、こんなふうになりたい」と思ったりしていました。最初に好きになったブランドがマルタン・マルジェラやヘルムート・ラングで、お昼代やお年玉を貯めてマルジェラの服を買うようなことを中1くらいからしていました。ステージに立つようになってからは自分で衣装を決めたり、アクセサリーをつくったり。そんな感じで自分の好きなものがわかってきて、ビンテージとストリートとモードを分けずにごちゃ混ぜで着ています。今の私が特に着たいものは、好きな人がつくったもので、今日着ているのは旦那さんがつくった服です。
タトゥーアーティスト、グラフィックデザイナーのTAPPEIさんがつくった服を纏うUCARYさん。背中には、TAPPEIという文字。
田中 :私が最初に服に興味を持ったのは中学生ぐらいで、ちょうどきゃりー(ぱみゅぱみゅ)ちゃんが出てきたりして、原宿がすごく話題になっていた時期でした。ロリータやパンクのファッションを知って、地元の横浜にはロリータを着ている人もパンクな人もいないから、こんなに自由に服を着ていいんだって思いました。でもお金がないからロリータのお洋服を一式揃えるのは大変で。形だけそれっぽい偽物を買っていたけど、やっぱり本物じゃないから、どんどん飽きていくんですよ。
25歳ぐらいのときに会社の人が教えてくれたブランド・NEEDLESにはまってからは、ブランドの歴史を辿るようにもなって。だから本格的に興味を持ち始めて、UCARYちゃんみたいにお金を貯めて服を買うようになったのは、本当に最近ですね。服を着ることは自分のためでもあるけど、展示に来てくれたファンの人と会うときに、作者である自分を見てがっかりしてほしくないという気持ちもどこかにあるんです。だから少しでもよく見せたくて、ファッションは人に見せるものでもあるということも意識しています。
UCARYさんも人前に出る機会が多いと思うのですが、服を選ぶうえで人からの視線は意識しますか?
UCARY :私は15歳でステージに立ち始めたのですが、その頃から変わらずに今も大事にしていることがあって。それは「上品なパンクスでいること」なんです。かわいいとかかっこいいとか言ってもらえるのも嬉しいけど、「すごかった」って言われるのが一番嬉しい。衝撃を与えられて、伝えたいことを心に届けることができるような服のバランスを自分の中で決めています。たとえばすごく優しい歌を、派手な格好で歌ったり。
私は今でこそこうやって喋れるのですが、人見知りがすごすぎて、外で急に話しかけられると混乱してしまうことがよくありました。見た目は派手なのに、なにも言えなくてぎこちなくなっちゃう自分にコンプレックスもあったから、派手な自分を覆い隠すために男の子みたいなぶかぶかの格好をしていたこともありました。でも、私が喋らないと私が消えてしまうかもと思ったことがあって、それからは喋る練習をしたり、言いたいことをメモに書いて読んだりもしています。……何の話をしてたんでしたっけ……。
言葉で表現することが苦手だと感じていたときに、服が手助けしてくれる部分もあったのでしょうか?
UCARY :はい。あるヘアメイクさんに、「UCARYちゃんはやってきたことがかっこいいから、なにもしない方が伝わるんじゃないかな。逆に1回普通にしてみたら?」と言ってもらったことがあって。その日を境に、その人に髪の毛を切ってもらうようになって、髪色も暗くしたんですけど、それから実際にお仕事が増えたりしました。
その後、そのヘアメイクさんの先輩の美容師であるsachiさんという人にお会いするタイミングがあったのですが、すごくかっこよくて。女性でいて、ハンサム。私も自分らしく世界観がバチっとはまったUCARY & THE VALENTINEになりたい!と思い、今は新しい自分をsachiさんにお任せしていて、金髪にするために伸ばし中です。私は歌う人だから、自分の歳に合った歌をそのときどきで歌っていきたいし、自分の感情に合っている服を着たい。だから、そういう変化も楽しいです。
田中 :着たいものや気分も変わるよね。私は、昔はもっとコンプレックスが強かったんです。誰かになにか言われたわけではないけど、不意に撮られた写真とかを見たときに、悪意はないのに常に苦しくて。誰のせいでもないから、誰のことも責められないし。それで、韓国に行ったりしながら、メイクや美容をかなり勉強したんですよね。前はもっと太っていたのですが、少し痩せたりもして。そうすることで、私の場合は前よりも自分に納得がいくようになりました。
私はサブリナ・カーペンターがすごく好きなんです。彼女は歌詞も超赤裸々なガールズトークみたいな内容だし、衣装もランジェリーにふわふわなガウンを着たりしていて、体型も含めて新しいジャンルをつくったと思います。サブリナ・カーペンターを見ていたら、私の体型でランジェリーを着るのもありかもと思って、試しに買って着てみたら、いいんじゃない?と思ったりして。見た目についての受け止め方の幅をエンタメが広げてくれることがあるなと感じます。
田中かえさんが描いたサブリナ・カーペンターのイラスト
「性って人間にとってすごく大事なものだなと思って、自分にとっては新しいチャレンジをしました」(田中)
お二人もさまざまなカルチャーから影響を受けてきたと思うのですが、表現者として、それぞれが今表現について考えていることをお聞きしたいです。
UCARY :2年前ぐらいに「Day and Night」というEPを出しました。それができたのは、お友達の八丈島の実家に行ったときに、自然のエネルギーである風力発電で電気をつくって貯めるという蓄電システムを見せてもらったことがきっかけで。いつ何が起こるかわからないと思ったときに、そういう知識も今の子どもたちや、これから生まれてくる子どもたちにお知らせしたいんですけど、どう伝えるかを考えています。「地球を大切にしましょう」というメッセージと、やるせない日の歌や恋した気持ちの歌の両方が、どうしたらうまく伝わるんだろうって。今はその風力発電の蓄電システムで集めた電気の電池をお借りしてミュージックビデオを撮ってみたり、超微力ですが、そういうことをさりげなく取り入れることで、自然と子どもたちがかっこいい、面白い、大事なことなんだと思うような、今までなかったサイクルをつくりたいなと思っているんです。
VIDEO “月来光(feat. 井口 理)”
田中 :今の話と近くて遠いかもしれないけど、たとえば戦争が起こっていることとか政治のこととか、セクシャルマイノリティへの差別について、私の周りの人がいろんなことを発信しているなかで、言えない自分ってどうなんだろうと思うことがすごくあります。もちろんちゃんと目は向けているけど、発信しようと思うと難しさがあって。
UCARY :わかります。うん。
田中 :性に関する話題もそうだと思うんですよね。私はTENGAさんのやっていることがすごく好きなんですよ。昔はTENGAってなんとなくエロいものだと認識していたけど、大人になった今、性を自分の生活と共にあるものとして前向きにとらえられるようなブランドをつくっているのって、かっこいいなと思って。このTXAさんとのコラボのほかに、TENGAのパッケージも今度手がけることになりました。
はじめは、やりたいけど周りからどう見られるか考えてしまって、若干悩むところもあったんです。でもここで私がTENGAのお仕事をすることで「こういう仕事をするんだ」と離れる人がいるなら別にそれでもいいやと思うぐらい、性って人間にとってすごく大事なものだなと思って、自分にとっては新しいチャレンジをしました。
「田中かえ Embroidery Sweatpants Olive 」。ジャケット(Embroidery Jacket)とのセットアップを想定したデザインで、裾はリブやゴムで絞るのではなく、ダーツを加えることでスッキリとしたシルエットを追求。
性や性愛に関して、今気になっているテーマや感じていることがあったら教えてください。
田中 :自分で自分を認めるってすごく難しいことだし、昔は今よりも自己愛がありませんでした。だけどだんだん、自分がいいと思っていることについて、だめだと言う人がいたら、「そんなふうに思うんだったら結構です」と思えるくらいでいられた方がいいなと考えるようになりました。
そうじゃない日ももちろんあるけど、今はわりと自分を愛せるようになったなと思います。
今もすごく完璧な状態だとは思っていないけど、そういう自分を受け入れてくれる人も存在するから、傷つくこともなく大丈夫でいられていて。友達でも彼氏でも彼女でも、誰でもいいからわかってくれる人がいて、ようやく自己愛に気づけるような気もします。
UCARY :私、「中性的」って人からよく言われるんですけど、生まれたときに下の穴が開いてなかったり、副乳があったり、睡眠が上手にできなかったりして。恋愛も自信がある、ないの次元にいけていない感覚だったんですけど、結婚して、私を受け入れて一緒に暮らしてくれる人に出会えて、本当に幸せものだし、ありがとうって思います。自分の顔を見るより、TAPPEIくん(UCARYさんのパートナー)の顔を見ている時間の方が長いじゃないですか。だから、自分の状態についても周りの人の方が気づいてくれるなと思います。
田中 :自分で自分のことをわかりきるのは限界があるよね。
UCARY :音楽を通してしか自分の心と話す機会がないから、毎日つくる作業をしているのかもしれない。自分のことが大好きですし、自分の曲も大好きだけど、そう思えるようになったのは、周りにそう気づかせてくれる人たちがたくさんいるおかげだからで、ラッキーだなと思います。
田中かえ
1995年、神奈川県横浜市に⽣まれる。
2017年、多摩美術⼤学美術学部情報デザイン学科メディア芸術コース卒業。イラストレーター。
⼿塚治⾍・吾妻ひでおから影響を受け、イラストを描き始める。多摩美術⼤学を卒業後、アーティスト活動を開始。
instagram /
@kaechanha25
UCARY & THE VALENTINE
兵庫県⽣まれ。作詞作曲・Vo.を担当していたTHE DIMを解散した後東京に拠点を移し、2012年にUCARY & THE VALENTINEとしてソロ活動を始める。
2016年に⾃主レーベル“ANARCHY TECHNO”を⽴ち上げ、フリーランスとしての活動を開始。
ソロプロジェクトでの⾳楽制作だけでなく、くるり、銀杏boyz、Art-school、the HIATUS、⽊村カエラ、あの、などさまざまなアーティストのゲストボーカルやバックコーラス、プロデューサーとしても活躍。
また、CMや映画などでの楽曲提供。モデル活動。
全て⼀点物のジュエリーブランド”LIED”。
2025年には”炭⽥ゆかり”として俳優デビュー。多彩な顔を持つ。
instagram /
@ucary_valentine
「田中かえ L/S T-shirt White / Charcoal」
Size: M, L, XL
Price: ¥7,590(税込)
White / Charcoal
「田中かえ Cropped T-shirt White」
Size: F
Price: ¥7,150(税込)
White
「田中かえ Jacquard Socks」
Size: F
Price: ¥2,475(税込)
White
「田中かえ Jacquard Sweater Gray」
Size: 1,2
Price: ¥34,100(税込)
Gray
「田中かえ Jacquard Embroidery Jacket Smoke Black / Pale Green」
Size: 1,2,3
Price: ¥34,100(税込)
Smoke Black / Pale Green
「田中かえ Embroidery Sweatpants Charcoal / Olive」
Size: 1,2
Price: ¥16,500(税込)
Charcoal / Olive
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