取材・文:倉田佳子、写真:RiE Amano、リード文・編集:竹中万季(me and you)
プリキュアをモチーフにしたネックレスを「22世紀ジェダイ」として発表し、近年は門倉太久斗名義で「ペニス・フラワー」など独自の形状をした植物をモチーフにした絵画作品を発表しているアーティストの門倉さん。TXAでは門倉さんとコラボレーションし、女性が着るものであるという社会規範が根強いワンピースを男性に向けて作ったものや、男性器をモチーフにしたシルエットを施したシャツなどが生まれました。
コムデギャルソンでパタンナーをしていた経験もある門倉さんが、独立後、はじめて服を作る機会となった本プロジェクト。TXAのプロジェクトマネジャーを務める今﨑契助も、TXAの新たな挑戦として思い入れがあるといいます。門倉さんのアトリエにて、コラボレーションに込めた思いや、それぞれがファッションに興味を持ったきっかけ、男性独自のノリへの問い、そして門倉さんが作品制作で大切にされている「自由」について、対談形式でお話を伺いました。
「時代の変化に合わせて男性同士も社会の中での自分たちの在り方を一度考えてみようよ、と投げかけたい」
これまでTXAではさまざまなアーティストとコラボレーションアイテムを発表してきました。どのように今回のコラボレーションは始まったのでしょうか?
今﨑契助(以下:今﨑):過去にコラボレーションしたアーティストの大河紀さんやunpisさん、millitsukaさんが参加していたグループ展『超アジテート・ムジナ穴』に伺った時に、門倉さんの作品を初めて拝見して。個人的にいいなと感じたと同時に、TXAのことも知ってくださっていたこともあり、お声がけさせていただきました。
門倉太久斗(以下:門倉):コラボレーションアーティストに知人が多かったこともあり以前から知っていたんです。TENGA含めて、新しい価値観を打ち出していく姿勢に好感を持っていました。
左から、門倉太久斗さん、今﨑契助(TXA)
今﨑:ちょうどそこで「ペニス・フラワー」シリーズの作品を展示してましたよね?
門倉:そうですね。「ペニス・フラワー」シリーズの作品は、絵画史において花が女性器のメタファーとして使われていることをある意味うらやましく思って、同じように男性器を描いている作品です。近年性にまつわる議論がさまざまな場所で増えてきている一方で、男性側が自身の性について考えることがまだ少ないように感じています。個人的に男性としてホモソーシャルは苦手だけど、その全部を否定したいかっていうとそういうわけでもなくて。たとえば、今回デザインしたジャケットの背面にプリントした「1969」という年号は、超音速旅客機のコンコルドが試験飛行した年を表しています。コンコルドが速くて好きだからという理由で描いているのですが、冷静に考えるとすごくシンプルな男の子的な魅力の感じ方だなとも葛藤していて。その感覚が悪いと言いたいのではなく、時代の変化に合わせて男性同士も社会の中での自分たちの在り方を一度考えてみようよ、と投げかけたいと思いました。そういう意味で「ペニス・フラワー」は、多様な男の人たちが社会と呼応しながら楽しくいれているような理想的なイメージを描いています。今回のコラボレーションでも、同じ意識でジャケットとシャツにペニス・フラワーのモチーフを使いました。

ジャケットの背中に大きく穴を開け、ペニス・フラワーの作品をプリント。花瓶に「1969」と描かれている(サンプル品につき、実際の商品とは一部デザインが異なります)
今﨑:シャツに関しては、仮縫いもしてくださった状態で提案いただいたので話が早く進みました。肌にあたる快感を追求するTENGAとしては着心地にもこだわり、高密度のブロードや、トーマスメイソンの細番手タイプライターを使っています。ワンピースは、4色展開のうち3色はジャージ、1色はウールを素材として起用しています。門倉さんが直感で選んだ色が豊かに揃っていて、肌色や性別、ファッションスタイルを問わず着ていただけるものになったと思います。
ペニス型のモチーフが施されたシャツは、ほかにストライプや、黒×アイスグリーンのものも
門倉:ワンピースはイメージが明確にあったので、デザイン画を伝えてパタンナーさんと共に制作していきました。モチーフは制服です。僕が普段からレディースのワンピースを着るからこそわかるのですが、男性の体格に合ったワンピースを作りたいと思ったんです。普通なら女性の曲線的な体に合わせて胸のあたりにダーツが入ってるのですが、今回は男性の胸の厚みに沿ってあえて平に設計しています。
今﨑:男性のためのワンピースというのは新しいですよね。
門倉:やっぱり着用者視点だと、レディースのワンピースを着る時に体の形がずっと気になっていたんです。メンズ用のワンピースはハイブランドでは展開されているのですが、もっと気軽に当たり前に着れるようになったらいいのにという一点突破な想いをもとに作りましたね。

門倉さんはウールのブラックを着用。ジャージー素材はサンドグレー・ディープグリーン・ブルーのものがある
いまのお話を伺うと、今回のコラボレーションではTXAが掲げる「多様な性愛の形を表現」するテーマがアートワークだけでなく、服のシルエットとしても表れているように感じます。
今﨑:そうですね。たとえばジャケットは背面の表地を切り取って普段見えない裏地にプリントをしたり、シャツは前身頃を切り取ってペニスのモチーフを表現するなど、インサイドアウトのデザインにしているのですが、メンズウェアの服飾史における文脈もそこに落とし込んでいます。中世ヨーロッパの貴族の間でファッションが嗜まれている時代には、襟元や袖口にスリットを入れてわざと白いリネンやレースの下着を見せることで清潔感を表現していたそうなんです。それに権威を主張したい思いや流行などが加わって、過剰な襟のシャツが生まれたり、男性が脚線美を誇張したり。いま考えるとかなり奇抜に見えるのですが、ある意味、男性が規範に縛られずにファッションを通して自由を獲得していた時代のようにも感じて、今回のデザインに採用しました。
神社を着る、思想雑誌で知ったコムデギャルソン、パラダイス・キス……それぞれのファッションとの出会い
門倉さんは過去のインタビューで、さまざまな活動を通して一番表現したいことに「自由」とおっしゃっていますね。「自由」とは一体どのようなものでしょうか?
門倉:大学卒業後に、10年間勤めていたコムデギャルソンで常に考えていたのは「新しいものを作る」ことでした。それってつまるところ、新たに「自由」を獲得することにつながると僕は理解しています。コムデギャルソンのデザイナー・川久保玲さんは言葉数が少ないので、その言葉以上でも以下でもなく自分で解釈するしかなかったんですけど、そばで川久保さんやチームの方々を見ていると、女性としてキャリアを全うすることに新たな価値を見出し、勝ち取ってきた世代なのだと感じることがあって。彼女たちの姿勢を見て、新しいものを作り続ける歴史の連続によって、次の未来に向けた自由が獲得できるのだと信じられましたね。
おふたりとも、そもそもファッションに興味を持ったきっかけとは?
門倉:僕はファッションを好きになったのは遅くて、いわゆるファッションキッズではなかったです。大学一年生の時に、「身体ともの」というテーマの授業で初めて装うことの面白さに気がついて。その授業の課題で、問題解決につながるなにか着れるものを作るというものがあって。当時、ホーリーなものを身にまとうことに興味があったこともあり、神社を着てみたんです。
神社を着る……?
門倉:当時行きつけの神社があったのですが、大学で忙しく行けなくなってしまって不安が募っていました。そこで自分なりの問題解決として、安心するために神社そのものを着てみたんです。左右にポケットがついたベスト型の神社を身にまとうことで、初めて装うことは自分の意思表示にもなりうるんだと面白さに気づきました。今﨑さんはどうですか?
今﨑:僕の場合は、物心ついた頃から装うことは当たり前のものでしたね。着てるものによって人からの評価が変わったり、自分の気持ちがあがるということが感覚的ですけど楽しくて、小学生の頃から自分で服を選んでました。そこには、なりたい自分になれるような変身願望もあったかもしれないです。具体的にファッションに意識的になったのは、中学1年生で入ったバスケットボール部で買ったバッシュ。どんなバッシュがあるんだろうとファッション雑誌を開いたのがきっかけで、ファッションそのものに興味を持ち始めましたね。
門倉:あの頃流行ってましたよね。
今﨑:そうですよね。バッシュのスニーカーブランドとロゴによっても、イメージが変わるのが面白かったです。
門倉:同世代くらいなのでイメージできますが、割とストリートからファッションに興味を持ち始めたのでしょうか?
今﨑:そうです。当時古着ブームもあったので、古着文脈でコンバースのオールスターもよく履いてましたね。門倉さんは、コムデギャルソンを知るきっかけはなんだったんですか?
門倉:思想雑誌でコムデギャルソンを知りましたね。当時のファッショントレンドやムーブメントは肌感としてわかってなくて、でも普段から読んでいた思想雑誌で唯一語られていたファッションブランドの名前がコムデギャルソンだったんです。そこからよく調べていくうちに、「ボディ・ミーツ・ドレス ドレス・ミーツ・ボディ」コレクション(コムデギャルソンが1997年春夏に発表した、従来の服が身体に沿うという考え方を覆し、身体と服が出会うことで新たな形を生み出すという発想)に衝撃的を受けて卒業後に就職しましたね。今﨑さんは、ファッションデザイナーの道に進むきっかけは?


今﨑:ストリートからモードのブランドまで知っていく中で、自己表現の延長として自分でもなにか作ってみたいという想いからデザイナーの道に進みました。まず最初のファッション体験としては、中学生の頃に地元の京都の都心部で見た、卓矢エンジェルやビューティービーストなどのサイバースタイルを着たDIYで派手なスタイルの方々でした。同時に、ウォルター ヴァン ベイレンドンクにも衝撃を受けて、モードの世界にも惹かれるようになって。そんな時に服飾学生を主人公にした漫画『パラダイス・キス』を読んでたら、文化服装学院の入学案内が差し込んであって上京とともに入学を決めました。入学後もベルンハルト ウィルヘルム、アン ヴァレリー アッシュなどのブランドにハマって。
門倉:懐かしいですね。
今﨑:どちらのブランドもメンズウェアを変形させていたり、着崩すようなスタイルを打ち出していて。当時、細身な自分としてはストリートウェアで流行っていたビッグサイズのメンズウェアを着ても自分らしくないように感じていたのですが、それらのブランドに出会って初めて変身できる楽しさを感じました。
門倉:当時の男の子たちは、みんな憧れてましたよね。
ナマハゲのように日常を台無しにすることの大切さ。「もっと意味わかんない絵を描いていきたい」
門倉さんは独立後は画家として活動していますが、「表現」することにおいて服と絵の違いなど感じる時はありますか?
門倉:どちらも経験して思うのは、あまり変わらないということ。出力の仕方や制作過程、技術などはもちろん違いますけどね。コムデギャルソンに所属していた時は、川久保さんが目指す「新たな自由」を勝ち取る方向で表現していましたが、僕らの世代が勝ち取るべき自由もまた別にあるんじゃないかなってしばらくしてから気づいて。それで独立後は、自分が思う「新たな自由」に対して取り組んでいます。もちろん布を扱う表現も好きなのですが、いまは絵でしか表現できないことを追求しています。
絵でしかできないこととは?
門倉:服を作る時は、身体がキャンバスとなるのですが、そうするとかなり制約が多いんですよね。絵の場合は、白紙のキャンバスから始まるから自由自在なんです。
「プリキュアネックレス」は、また絵とも服とも違ったものなのでしょうか?
門倉:これは2017年から完全に自分用に作っている、祭壇のようなものです。プリキュアは子供向けアニメでもあるので、「相手の気持ちになって感謝を伝えましょう」など当たり前のメッセージを伝えてるんですが、見るまで僕は知らなかった。そこから真剣に見れば見るほど夢中になって、ある日、見ながら大号泣したことがあって。その気持ちを忘れないように制作し始めたのがきっかけです。あとは、プリキュアに登場するキャラクターたちが変身することでなりたい自分になっていくシーンにも感動して。それら全ての想いを忘れないように、祭壇として置くだけではなく身につけられるような状態に仕上げました。たまに販売を希望される方もいらっしゃるのですが、自分用に作っているので販売することはないですね。
社会が経済的に困窮するいま、ファッション、アートともに表現に対する必要価値が問われやすい時代になってきているように思います。表現する上で社会に対して意識していることはありますか?
門倉:個人的には、皆さんの生活を台無しにしたいなって思ってるんですね。たとえば、日本の伝統的な来訪神であるナマハゲって、異界からやってきて人々の日常を混乱させて去っていくじゃないですか。自分が表現する上で社会に向けてやれることってこれなんじゃないかなって途中で気がついてから、割と迷いがなく活動できるようになりました。振り返ってみると、ファッションショーも同じように考えられると思ってて。ランウェイで仕切られた舞台上の世界と観客の世界があって、そこに一見美しいのかどうかもよくわからないものを身にまとった非日常的なモデルがみんなを一瞬にして混乱させて帰っていく。あの行為は異界からやってくるナマハゲに近いものがあると思っています。
「台無しにしたい」という言葉は一見過激的に聞こえますが、言い換えれば、あまりにも現実が差し迫る状況の中で、それを断ち切って急に非日常へと誘ったり、驚きを与えたりするような意味でもありますよね。
門倉:ペニス・フラワーを描いている身でいうのもアレなのですが、実はお花が嫌いというか怖いんですね。本物の花を見てると、だんだん顔に見えてきてしまって。でも花瓶に生けて部屋に置いてあると、花が花瓶を通じて異界から飛び出てきているように見えてちょっと楽しくなるんです。だから、僕の描く絵でも同じ感覚を皆さんに味わってもらえたらなと思っています。ナマハゲもあんなに怖いのに、昔から語り継がれているじゃないですか。昔の人は、たまに日常を台無しにすることの大切さも知っていたのだと思います。でもやっぱり最近、落ち着いた心を掻き乱されたくないという気持ちも高まっているように感じていて、作り手でも同じ気持ちの人は少なくなってきているように感じています。もっと意味わかんない絵を描いていきたいですね。

最近、性や性愛で気になったトピックなどありますか?
門倉:最初に話したこととも似てきますが、やっぱり男性としてこれから男性独自のノリをどうすればいいんだろうと常日頃考えていて。男性同士で考える機会やきっかけをこれからも表現を通して伝えていけるようになりたいなと思っています。
今﨑:今回のコラボレーションでも、一般的にまだ語りにくい「性」、そして特に男性同士で「性」について語ることに対して、男性器というモチーフで触れられたように思います。
今後「TXA」としては、どのような活動を目指していますか?
今﨑:「性愛の表現の幅を広げる」ということをテーマにTXAはスタートしました。性の話ってやっぱりなかなか人と話しづらいトピックではあるのですが、語らない限り、性に対する知識の偏りや知らないことも増えていくばかりです。そんな世の中を少しずつTENGAの「性を表通りに」というビジョンのように変えていければなと思っています。これまでTENGAでは真面目か楽しいかという二択で性に関することを伝えてきたのですが、その間のコミュニケーションとしてTXAは存在しています。これからもアーティストの方々と性に対して新しい価値観を表現できる場にしたいですね。
今年からは、性暴力撲滅に向けた啓発活動を行う団体への支援も継続的におこなっていく予定です。性についてもっとポジティブに話せる土壌したいという思いと同時に、性によって誰かが傷つくリスクも社会には存在しているので、さまざまな取り組みから性愛について伝えていければと思っています。今後も表現と実践を通して多様な性愛の形を表現していきたいですね。
門倉太久斗(22世紀ジェダイ)
埼玉県生まれ、武蔵野美術大学造形学部空間デザイン科ファッション専攻卒業。コム デ ギャルソンにパタンナーとして従事しながら、愛するアニメ、プリキュアをモチーフとしたネックレスを制作、「22世紀ジェダイ」としてSNSで発表し注目を集める。独立後、「門倉太久斗」名義で発表する絵画作品では、「やってくるもの」をテーマに表現を追求。独自の形状をした植物や人物などをモチーフに、絶妙な構図と色の組み合わせで画面いっぱいに描き、中毒的な魅力をもって鑑賞者を引きつける。
今﨑契助
TXAのプロジェクトマネジャー。京都生まれ。文化ファッション大学院大学を修了後、「PLASTICTOKYO」のデザイナーとして活動。第10回DHLデザイナーアワード受賞。第34回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。