取材・文:羽佐田瑶子、写真:出川光、リード文・編集:竹中万季(me and you)
性行為は人と人が結ばれるものの一つである一方で、性暴力などによって苦しんでいる方も少なくありません。TXAではファッションやアートを用いて性愛にまつわる多様な形を表現し、社会の価値観を変えるための活動をおこなうなかで、性暴力がなくなる社会にむけて少しでも何かできたらという思いから、性暴力ゼロに向けて活動しているNPO法人「しあわせなみだ」さんに売上の一部を寄付することを決めました。
性暴力に遭った方やそのパートナーがそれぞれのペースで回復できるように多様な活動をおこなっているしあわせなみださんは、第三者の立場からできる支援についても考えられています。自分自身や身近な人が被害者、加害者になることを防ぐための心がけ、また“アクティブ・バイスタンダー”として第三者からできることなど、性暴力の現状から実践的なことまで、代表の千谷直史さんにくわしくお話いただきました。
※この記事では性暴力に関する具体的な事例にも触れています。
性暴力は、暴力や脅しといったわかりやすい暴力をしない場合がほとんど
性暴力というと非常に暴力的な場面のみを想像してしまいがちですが、裸の写真を見せられたりいやらしい言葉を浴びせられたり、不快に思ったことが実は性暴力に関連していたと後々気づくケースもあると思います。性暴力とはどのようなことを指すのか、教えていただけますか?
千谷 :端的に言うと「本人が望まない性的な出来事」を性暴力といいます。なので、行為する側ではなく、受け手がどのように捉えるかが重要です。おっしゃったように、性的に傷つけられた行為はすべて含まれます。
「暴力」という単語が入っているので勘違いされている方もいるのですが、不同意の性行為が行われる場合、加害者は暴力や脅しといったわかりやすい暴力をしない場合がほとんどです。社会的な立場を利用して断りづらくしたり、精神的なプレッシャーで半ば強要したりといった、Noと言わせない状況で性被害にあうことが多いと聞きます。
性暴力に関してメディアなどで耳にすることも増えてきましたが、昨今の現状を教えていただけますか。
千谷 :警視庁の調べによると、令和5年度の認知件数は2711件です(
※1 )。この数字はあくまで存在している性暴力の一部で、性犯罪として警察が取り扱ってくれている事案ということです。同年の内閣府の調査によると「これまで不同意性行為などをされた被害経験はあるか」という質問に対して、被害経験のある女性は8.1%、男性は0.7%とあります(
※2 )。
一方、「被害に遭った際に誰かに相談したかどうか」の項目では、女性は40%、男性は20%と少なく、かつ警察に相談した人は1%台ですので、公表されている数字以上の性暴力が存在し、他人に相談しづらいのが大きな問題点だと思います。また、男性の相談率が少ないのは、「泣くのは女々しい」「男ならやられたらやりかえせ」といった有害な男らしさ、ジェンダー規範が影響していると考えられます。
2019年頃に性犯罪に関連する無罪判決が相次いだことで刑法改正を求める声が大きくなりましたよね。2023年7月には性犯罪の刑法が改正されました。
千谷 :改正前は、暴行・脅迫されたりするような拒否が難しい状況だということが認められないと訴えられなかったんです。刑法改正によって、アルコールや薬物を飲まされる、上下関係があって立場によって抵抗できない、障害があるなど、明確な暴行・脅迫がなくても、被害者が同意を取れない状態で性行為がなされた場合も犯罪になるなど、十分ではないもののさまざまな点で見直されました(
※3 )。メディアで取り上げられる機会も増え、注目が集まっていると感じます。同時に、メディアでは加害者に同情の声が集まったり擁護されたりすることもあるので、被害者が傷つけられる状況が続いています。
「自分の大切な人を苦しめている性暴力に怒りを感じ、なくなってほしいと思った」
世間における認識の変化は感じますか?
千谷 :肌感ですが、男性同士でも性暴力について「よくないよね」と語る機会は増えてきたと思います。一方で、僕は学生時代から「しあわせなみだ」の活動をしているのですが、活動に対してリスペクトを持って接してくれている子でも、痴漢を茶化すようなことを言っている場合もあって。性暴力がエンタメとして扱われているのを感じてグサッときたことがあり、まだまだだなと思いますね。
たとえば少女漫画でよくあった「壁ドン」なども見かけなくなってきて、変化は感じているのですが……
千谷 :描かれなくなってきたとは思いますが、「それがどう悪いのか」という描かれ方はまだ少ない気がします。どちらかと言えば、リスクを避けるために描かない選択が取られているだけで、どうしてダメなのか、された側はどういう気持ちになるのか、という文脈までは語られていないですよね。そこまで話されるようになると、理解が深まると思います。
千谷さんは学生時代からNPO法人「しあわせなみだ」に参加されているとのことですが、活動に興味を持ったきっかけは?
千谷 :友人がDV被害に遭ったことがきっかけです。私は直接被害を受けたわけではありませんが、自分の大切な人を苦しめている性暴力に怒りを感じ、なくなってほしいと思ったんです。東京の大学に進学したタイミングで性暴力について勉強しようと思い、いろいろな活動の講演会に足を運んだなかで「しあわせなみだ」に出会いました。性暴力ゼロを目指して、加害者/被害者だけではない第三者の立場から何ができるか考えていることに興味を持って、参加を決めました。
第三者の立場だとしても、性被害に遭った人を前にして葛藤する気持ちはわかります。
千谷 :被害を受けて自分よりも大変な思いをしている人を前にすると、自分の気持ちに蓋をして、友人にも話せず孤立してしまう方がいます。僕もひとりで傷を深めていって、行き場のない怒りに戸惑いを覚えました。「寅さんのなみだ」という、パートナーが性被害を経験した男性の会を開催しているのですが、そこでも「自分だけで抱え込まないといけない状況になってしまった」という悩みをよく聞きます。
「寅さんのなみだ」はどんな取り組みなんでしょうか。
千谷 :パートナーが回復するまでどのように長い目で支えるか、彼女への普段の接し方についてアドバイスをしています。テレビで性暴力にまつわる内容が流れてきた場合、フラッシュバックも考えられるのでどう対応すべきか。性的な触れ合いを求めることは傷つけてしまうのではないか。悩みを吐き出せる場所がなかなかないので、みなさん最初は緊張していますが、話しながら少しずつ笑顔になっていきます。今年から対面だけでなくオンラインでも行うようになり、今後もできるだけ多くの方に届けられればと思っています。
海外の調査データでは、障害女性は健常女性のほぼ2〜3倍、性暴力被害を受けていた
これまでのお話で、「寅さんのなみだ」など第三者の立場からできる支援についても取り組まれていると伺ってきましたが、「しあわせなみだ」の活動内容についてあらためて教えていただけますか?
千谷 :「性暴力ゼロで誰にとってもしあわせな社会を創る」というビジョンのもと、3つの柱を軸に活動しています。
1つ目が「Cheering Tears」。性暴力等に遭った方を応援する事業です。パートナーや家族など大切な人が被害に遭うことで間接的に傷つくことを「二次受傷」というのですが、直接被害に遭っていなくても、性暴力に苦しめられていると感じたら同じく被害者と捉えていいと私たちは考えています。また、傷つけられた被害者が回復するにあたって、伴走者の存在はとても大事だと考えて「寅さんのなみだ」を開催しています。
2つ目が「Beautiful Tears」。性暴力等に遭った方を美容の力で輝かせる事業です。性被害によって「自分は汚れた存在だ」と自尊心が損なわれてしまう方が少なくないんですね。被害によって一人で暮らすことが難しかったり、施設で暮らしていたりする女性を中心にメイク講座やカットモデルを体験してもらい、美容の力でご自身の美しさに気づいてもらいたいと思っています。
3つ目が「Revolutionary Tears」。性暴力ゼロを実現するために、情報発信や啓蒙活動、行政への意見提出などを行っています。自治体や学校で性暴力ゼロに向けた研修・講演会をしたり、障害のある児童の方への発信にも力を入れているので、特別支援学校に伺ったりしています。
障害のある方は性被害に遭う割合が高いと別のインタビューで拝見しました。
千谷 :「障害者はだましやすい、抵抗してこない」と、性暴力をはたらく卑劣な人たちがいます。「しあわせなみだ」のメンバーは全員、日中に本業をしながら活動しているのですが、本業では障害福祉に携わっている者が多く、接する中で「この人たちは性被害に遭いやすいのではないか」という疑問があり、調査を行ったんですね。障害のある方は褒められる経験が少ないことが多く、自己肯定感が低くなってしまいがち。常にニコニコしてしまい、するといい人も悪い人も声をかけてきて、どこかに連れて行かれてしまうことがあります。
海外の調査データによると、障害女性は健常女性のほぼ2〜3倍、性暴力被害を受けていたという結果が出ています(※4 )。それを受けて、アメリカや韓国では、障害者に対する性犯罪の加害者は、通常の性犯罪の量刑よりも重くなる規定があるんですね。日本でも、そうした法整備の実現を目指したいです。
自己肯定感が低いと性暴力に遭いやすいのはどうしてなのでしょうか?
千谷 :決して自己肯定感が低い人が悪いわけではないです。性暴力の一つの誤解として、性的魅力がある人が被害に遭いやすいのではなく、おとなしくて警察や大人に言わなさそうな人が最もターゲットになりやすいんです。
だから、社会的な立場を利用したり抵抗できない人を狙ったり、弱みにつけ込むんですね。
千谷 :実は性暴力の約8割が顔見知りからの被害です。つまり、どういう人かわかったうえで計画的に行動されることがほとんど。加害者のことをただ「性欲に抗えなかった」人物だと思われる場合も少なくありませんが、実際には性欲だけでなく「支配欲」「加害欲」を満たすための手段として行われることも多いんです。自分が優位に立つために相手をより弱い存在だと決めつけ、一方で加害行為が発覚した際には「被害者が誘った」などと責任を転嫁して罪から逃れようとするんですよね。
たとえば「痴漢は犯罪です」「私たちは泣き寝入りしません」と書かれてある「痴漢抑止バッジ」というものがあるのですが、これをつけているだけで毎日の痴漢がなくなったという話がありました。結局、相手が泣き寝入りするかどうかを加害者は見ているのだとよくわかります。
アクティブ・バイスタンダーとしてできる「5つのD」という介入方法
アクティブ・バイスタンダー(行動する傍観者)とは、目の前で起きているハラスメントや暴力、差別の被害を軽減するために居合わせた第三者が行動すること。具体的な行動として、どのようなことから始めればよいのでしょうか?
千谷 :第三者が行動するにあたって、アメリカの人権団体が考えた「5つのD」という介入方法の指標があります。
1.Direct :安全を確認したうえで、加害者に直接声をかけること。
2.Distract :水をこぼしたり、話しかけたり、注意をそらすことで加害行為を止めること。
3.Delegate :上司や友だち、警察など周りの第三者に助けを求めること。
4.Document :動画や写真、録音することで日時や場所が特定できる証拠を残すこと。
5.Delay :後から被害者に声をかけて、気持ちに寄り添うことで心理的に支えること。
1は危険度も高いので、加害者に触れないかたちで他にもできることがあると知ってもらいたいです。たとえば痴漢行為ですと、第三者からアクションがあった場合は8〜9割の加害者が行動をやめると言われているので、アクティブ・バイスタンダーは非常に有効な手段だと思います(※5 )。
8〜9割も抑えられるんですか。
千谷 :それだけ、加害者は弱い人間だということですよね。レストランの別の席で薬を入れているのを見かけたら店員さんに伝える、執拗なナンパには友だちのふりをして声をかける、トラブルのフリをして音楽を流すというのもその場の空気が一瞬で変わるので、いい方法だと思います。
自分が過去に経験した悩ましかった場面で、昼間に路地裏を歩いていたら女性の後ろをつけているように見える男性がいたんです。でも、もしかしたら偶然かもしれないので何もできなくて、どうしたらよかったんだろうということを思い出しました。
千谷 :「勘違いではないか」「急に声をかけたら、怖がらせるのではないか」と思いますようね。声をかけることも非常に勇気がいることですし、その場での判断は難しいと思います。できることとしては、女性の方に「後ろからつけられているみたいですが、知り合いですか?」と話しかける。「心配になって声をかけました」「勘違いだったらすみません」と付け加えると、嫌な思いをする人はあまりいないと思います。
5の「Delay」にあるように、その場で行動できなかったとしても、後から手助けすることもできます。たとえば、痴漢に遭っている人がいたとき、後から声をかけたり、4「Document」を意識して記録を残しておく。痴漢行為は現場確保でなくても、第三者の目撃証言や監視カメラ、指紋やDNAなどで証拠が残るので、後で駅員や警察に相談する形でも警察は動いてくれるんです。
性的同意の取り方のヒントに。実はよく似ている性の話と食べ物の話
意識していたとしても加害側に立つ可能性もあります。加害者にならないための心がけはありますか?
千谷 :関係性のない人と性行為をしない、というのは一つの安全対策だと思いますが、中高生に向けた講演では、関係性のある人であっても必ず性的同意を取ることが重要だと話しています。同意を取ることに「ムードがない」と言う人もいますが、明確に「しよう」と同意を取ることも雰囲気づくりになると思います。そっちの方が人間として魅力的だという社会になってほしいですね。
また、セックスがカップルの最終到達点だと思っている人は多いのですが、そうではなくて、セックスもコミュニケーションの一つ。僕はごはんを食べることと性的なことって似ていると思うのですが、食事では相手の好みを聞くじゃないですか。命に関わることですし、アレルギーの有無も聞きますよね。
中華かイタリアンどっちが気分? みたいなことも含めて聞きますね。
千谷 :はい。ただ好きか嫌いか、食べられるか食べられないかだけではなく、その日の気分も聞くような好みの強弱の感じが性行為と似ていると思います。その日の気分によって対応を変えるし、嫌いな食べ物は相手に強要しないですよね。僕はトマトが嫌いですが、火を通したトマト料理は大好きです。もしかしたら相手は身体の触れ合いには同意していても、挿入行為は嫌かもしれない。そういう風に、好き嫌いだけでは語れないのが性の話と似ているなと思います。
そういう風に捉えると、性の話と食べ物の話の進め方はすごく似ていて、コミュニケーションの取り方の参考になりますね。
千谷 :セックスって一つの形が決まっているように思われますが、コミュニケーションをとる意識を持つことで、加害性は一気におさえられると思います。暗黙の了解は避け、日頃のコミュニケーションから嫌なことを伝え、「言いづらかっただろうけれど言ってくれてありがとう」と受容する姿勢をお互いに見せることが大切ですよね。ときには話し合いができる状況になるまで待つことも大事になるのではないかと思います。
「性暴力もいつか歴史を振り返ったときに『昔はあった』と言われるものになると確信している」
「しあわせなみだ」さんで、現在力を入れて取り組まれていることは?
千谷 :当事者や家族の不安を軽減するために、「代表者聴取」という児童や障害者の事情聴取の負担を軽減する制度の認知を広げ、性被害について相談するハードルを下げるような動画を作ろうと企画しています。あとは「寅さんのなみだ」を継続的に続けていきたいです。
性暴力被害からの回復の道のりは人それぞれ過程が異なり、その人のベースで回復できるようになるべく多様で包括的な支援が必要だと考えています。私たちの行動指針の一つに「当事者の力を信じよう」というものがあります。被害を受けた方は甚大な傷を与えられていて、社会生活を送ることすら難しい人も少なくありません。なので、回復に向けて思うようにいかないこともあり、多くの人が厳しく険しい道のりを何年も歩んでいる状態です。ですが、当事者はいつまでも腫れ物扱いされるべきではない。どんな状況も、どんな感情も大切なものだと捉え、本人の回復の力を尊重したいと思います。
だから、被害者の方自身の尊厳が取り戻されるまで、継続して当事者や周囲の人をサポートされているんですね。
千谷 :男性から被害に遭った女性は、周囲の男性に対して恐怖心を持ってしまい、社会生活が難しくなりやすいです。なので、加害者と同じ属性を持った人が伴走することは回復の過程でとても重要で、とくに性暴力とダイレクトに結びつく性行為は回復が如実にわかる部分でもあり、「寅さんのなみだ」をおこなっているのにはそうした背景もあります。また、パートナーがいる・いないに関わらず、性暴力被害からの回復には周囲の支えや社会資源が重要だと思うので、しあわせなみだの3つの柱の軸を踏まえながら、多様な方法を模索しているところです。
時間が解決してくれる、という言葉がありますが、もっと根本的に支えていくこともやはり大事なのですね。そのためにも、性暴力が個人的な問題としてだけ捉えられるのではなく、社会として変わっていくべきだと思うのですが、どんな働きかけが必要なのでしょうか?
千谷 :性犯罪の厳罰化、被害者支援制度の強化、相談窓口の拡充、そして性教育が必要だと思います。加害者が裁かれることは、非常に重要なことです。適切に裁かれても被害はなかったことにはなりませんし、それだけで心身の状態が回復することはありませんが、回復の過程で重要な通過点になります。また、裁かれることで社会に対して性暴力は嫌悪すべき行為であるというメッセージが伝わります。
また、幼少期から性的同意の大切さやジェンダーについて学ぶことで、加害と被害を未然に防ぐ土壌を育てることができます。でもこれは、子どもに限らず大人にも必要なことで、とくに性暴力がエンタメとして捉えられるようなコンテンツを楽しんでいる人は学び直しをお願いしたいです。性暴力を絶対にしないと思っていても悪気なくやってしまう人がいるのは、自分ごととして捉えられていないからだと思います。
性教育は子どもだけでなく、学ばずに育った大人にとっても重要なものですね。
千谷 :性暴力は身近に潜んでいるという認知を広めることが大事だと考えています。性暴力について聞いたことはあるけど、深く考えたことのない人にこそ知ってもらう必要があるので、そうした方に届けていきたいですね。よく被害者の服装や言動などが自己責任だと取り立たされますが、性教育を学べば、性暴力は加害者が100%悪いものであると知っていただけると思います。
性被害に遭った人が身近にいた場合はどうしたらいいでしょうか。
千谷 :性被害に遭った方は、すぐに相談できない人も多いんですね。周囲も気づかなかったと後悔することがあるのですが、気づいたタイミングからスタートすれば遅いことはないと思います。助けを求める先として、「Cure Time」など匿名チャットで24時間相談できるところや、最寄りの都道府県警察の性犯罪被害者相談窓口につながる「#8103(ハートさん)」があります。また、ワンストップで相談窓口につながる「#8891(ハヤクイク)」は当事者ではなく知人でも相談できるので、何かあったときの活用先として知ってもらえるといいと思います。ほかにもさまざまな相談窓口があるので、自分に合うものを探してみてもいいですね。
最後に、千谷さんご自身が描く社会像について教えてください。
千谷 :「犯罪をゼロにすることはできない」という話をたまに聞きますが、歴史を振り返ってみると、明らかに差別的で暴力的なものにもかかわらず当たり前になっていた奴隷制度は、現代では絶対に許されないものだと誰もが知っています。性暴力もいつか歴史を振り返ったときに「昔はあった」と言われるものになると確信しているので、すべての人の性が尊重される社会の実現を目指して活動していきたいです。
千谷直史
NPO法人「しあわせなみだ」理事長。社会福祉士。1995年生まれ、山口県出身。上智大学神学部卒。高校時代、親しい友人に性暴力被害者であることを打ち明けられたことをきっかけに、性暴力の現状に関心を持つ。児童や青少年に対する電話カウンセリングの相談員や、性教育NPO等での活動を経て、2017年からしあわせなみだの活動に加わる。2018年から理事。2023年から理事長。しあわせなみだでは「SHE(Sexual Health Education)検定」の開発や、パートナー等が性被害にあった男性の会「寅さんのなみだ」の運営等を担当。講演実績に、「服装は性暴力に遭う上で関係があるのか」(上智大学)、「性暴力と性の問題について」(大東学園高校)、「学校では教えてくれない性教育の話」(江東区立第二大島中学校)、「児童虐待と性教育」(東久留米市)等。大学卒業後、日本福祉教育専門学校にて、困難を抱える人々への理解を深める。高齢者施設等を経て、現在は精神障害者を対象としたグループホームに勤務。
※1:警察庁「令和5年の刑法犯に関する統計資料」
※2:内閣府「男女間における暴力に関する調査(令和5年度調査)」 における「不同意性交等をされた経験」
※3:2023年7月13日から強制性交等罪は「不同意性交等罪」になり、暴行・脅迫・障害・アルコール・薬物・フリーズ・虐待・立場による影響力 などが原因となって、同意しない意思を形成したり、表明したり、全うすることが難しい状態で、性交等やわいせつな行為をすると、 「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」として処罰されるように変更されました。また、性交同意年齢が16歳未満に引き上げられること、性的な画像の盗撮が「撮影罪」「提供罪」として処罰されることなども付け加えられました(法務省「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」 )
※4:法務省「海外における障害者への性暴力被害の状況【概要】」
※5:株式会社リベルタス・コンサルティング「若年層の痴漢被害等に関するオンライン調査」結果報告書